若さゆえ
例年、8/13付近はお盆休みとして連休が常なのだが困ったことに今年は忙しい。
客も同じ担当のメンバーも休んでいるのに、私は出社だ。
幸い、ここのところ涼しく、むしろ上着を着なければ寒いぐらいなので、会社に出向くのは苦ではない。
日頃の運動不足解消も兼ねて、どうせ誰もいないだろうし広いフロア貸し切りで仕事をしてやろうと10時頃事務所に顔を出したところ新人N川がいた。
「おはよう」と声をかけると「おはようございます」と挨拶は返すものの、表情に余裕はなくそさくさとPCモニタにまた向かってしまった。
通常、弊社は新人に残業は基本的にさせない。まして、お盆期間は担当にもよりけりではあるものの、しっかりと夏休みを取らせる。
なのに、皆が休んでいる今日、新人が一人で余裕なく仕事とはどういうことか。
よろしくない。よろしくない。
そう心の声を唱えながらN川のもとに寄って声をかけた。
「夏休みはどうしたんだ?忙しいのか?」
振り向くN川の髪の毛はベタついて、うっすら伸びた似合わない青髭は長いことそこで仕事していたことを証明するかのようだった。
涙目になりながらN川は事情を話してくれた。
なんでも、直属の先輩Eが早めの夏休み休暇に入る前に「連休明けまで〇〇を終わらせておいて」とN川に頼んだらしい。
手順があったようで、その通りやればすぐにできる内容…と聞いていてN川は休暇に入る直前にその仕事を始めたのだが、どうも手順通りの結果にはならず、何ならデータを壊してしまったように見えるとのこと。
とりあえず、手順を一緒に見ながらN川がやったという作業を一緒にもう一度やってみることにした。
確かに手順はあるものの、この手順…非常にお粗末。画面のハードコピーを貼っただけのようなもので、文字の説明が少ない。
しかも古いパソコンでやっているからか、N川のパソコンで出てくる画面とは微妙に差異がある。私はそれなりに経験もあるので、説明不足なところは脳内で補完しながら作業を進められたが、N川には難易度が高かっただろう。
「良く分からないのに、とりあえず進めたの?」
「…はい」
「Eさんに聞こうと思わなかったの?」
「お休みのところ連絡するのも気が引けて」
色々と教育方針などもあるだろうから、ごちゃごちゃ口出ししたくはなかったが
「分からないことを聞きまくれるのは新人の特権だから、あまり遠慮しちゃだめだぞ」
とだけ伝えた。
で、二人で手順をにらめっこしながらそれらしいものが出来上がり、N川が壊したかもしれないデータもN川のパソコンの中に閉じたデータだったため、問題ないことも判明した。
全ての作業を終えて「ありがとうございます!」と礼を言うN川は、涙目になっていた。
正直、新人時代、休日にこっそり一人で出てきて吐きそうになりながら自分のトラブル対応をした記憶は過去に私にもある。
そんな時、私も別担当の先輩に助けてもらった。
「じゃ、私は行くからね」
「お礼にご飯でもご馳走します!」
「いや、自分の仕事があるから、離れるねってこと。もう遅いからN川はさっさと帰りな」
N川は申し訳ないですといって泣いた。それを見て私は久しぶりに声を出して笑った。
AM11時に会社に到着し、すでにPM5時を過ぎたところだった。