yagiozi’s blog

仙台市八木山在住おじさんのブログです

夜の子②

アキラとは夜に八木山の某コンビニ前で落ち合うことになっていた。

 

いつもならソシャゲのイベントで二人は仮想世界にいるはずの時間だが、今日は現実世界で言葉を交わす。

指定時間の少しだけ早くコンビニについたが、雑誌コーナーは立ち読みお断りの掲示がされており、しょうがないのでハイボールを一缶とチーズを買ってコンビニ前で待つ。

 

昼は遠慮をしらない太陽様がゴキゲンで外に出たくないが、夏の夜は季節と朝昼晩の組み合わせの中で最もつよい。

至高である。

 

夜風が気持ちいい なんて余裕があればよかったのだが、あろうことか私は緊張していた。

そもそもコロナ禍になってからテレワーク中心となり、人と話す機会も減っていることに加え、OFFの時間帯に見ず知らずの高校生と会おうとしているのである。

 

チャット上ではベラベラと冗談とジョークと戯言を並べ立てられたのに、はたして一回り以上年齢差のある男子高校生と何を話せばいいのだろうか。

 

まぁ、なるようになるさ。

 

なかなか、それとおぼしき人物が登場しないので、ゲームのチャットでアキラに

「コンビニ前にいるぞ」と連絡した。

 

オンライン状態のアキラからすぐに返信がきた

 

「僕ももう着いてコンビニの中にいますよ」

 

???

 

振り向いた先にいた女子は、コンビニのウィンドウ越しに口元に手を当ててニヤニヤと笑っていた。

 

――

 

「男子ちゃうやん」

ゲーム内のノリで思わず関西弁が出る。

 

「アレ、男子なんて言いましたっけ?w」

 

言ったとも。何なら男子だと思ってしょーもない下ネタをガンガン言ったとも。

覆水盆に返らずだ。

どうしてくれる小娘。

 

「一人称『僕』だったし、マジメ男子高校生かと思ってたゾ」

 

「不真面目JKですよw」

 

不真面目JKは夏だというのに長袖パーカーと長ズボンだった。

 

「暑くないのか?おっさんの方が若々しい格好だぞ」

まさかJKが登場すると思ってもいなかった私は、大学時代から着ているバンドTと短パンである。

 

「虫に刺されるからー」

「おっさんは抜かりなく虫よけしてきたけどな」

「おじさんの血まずそうだし、大丈夫じゃない?w」

「うるせ」

 

動揺こそしたものの、ゲーム内のノリで話せそうだったからひとまずは安心した。

 

「なんか買うか?おごるぞ」

「もう買ってるから大丈夫」

オーバーサイズ気味のパーカーからアキラは抹茶ラテ?を出して答えた。

 

「ね、知り合いとか来たら気まずいから別の場所行かない?」

「そうだな。おっさんオマワリさんにアレされかねないしな」

「アレ?」

私は両手首をくっつけて手錠されるジェスチャーをする。

「あー、名刺交換?」

「ちげーよ!逮捕だよ」

 

ゲーム内のノリも相当よかったが、なかなか上級者のようだった。

 

「いい場所があるんだけど」

「ココスか?おごるぞ」

「ココス時短でやってないじゃんw」

「あーそうか…じゃあどこで奢ればいいんだ」

「金で釣るなw あーさてはいつもそうやって…」

「やってません!」

 

なんやかんや漫才をしながらアキラが連れて行った場所は、八木山の某夜景スポットだった。

八木山には駅上のてっぺん広場の他に、いくつか夜景スポットがある。

本当に地元民しか知らないような。

そしてアキラに連れられていったその場所は私も何度か足を運んだことがある場所だった。

我々のような者たちのためにこっそりと用意された空間。

夜のその場所を知っているだけで、アキラは「我々」側なのだと理解した。